顔面神経麻痺

顔面神経麻痺の後遺症治療

顔面神経麻痺が完治しなかった不完全治癒例には何らかの後遺症が発現する。後遺症には、病的共同運動、拘縮、痙攣、ワニの涙、アブミ骨筋性耳鳴などがあり、麻痺発症6ヶ月頃から発現することが多い。

ワニの涙やアブミ骨筋性耳鳴は病的共同運動や拘縮より早く発現することが多い。前者は食事をするときに涙が出る現象で、後者は顔面の表情筋の動きに伴い不快な耳鳴が生じる現象である。病的共同運動は最も頻度が高く、うっとうしい後遺症で、食事や会話の際に眼裂が収縮したり、瞬眼と同時に口角がピクピク痙攣のように動くことがある。拘縮はいわゆる顔面のこわばりで、特に鼻唇溝(ほうれい線)が深くなり上口唇の動きも悪く、安静時には健側の顔が麻痺しているかのように見えることがある。これらの後遺症の頻度は病因や年齢、治療方法、治療開始時期などにより異なるが、麻痺発症6ヶ月以内に完治しなかった症例には、何らかの後遺症が残ると考えてよい。また、一般的には麻痺の回復が遅い症例ほど後遺症の頻度が高くかつ重篤である。

麻痺発症1ヶ月〜1年における慢性期の治療は、神経再生の際に過誤支配が起こらないようにすることを目的としたものであるが、発症1年以上を経過した不完全治癒例においてみられる後遺症は、ほとんど改善することがなく、生涯にわたり持続すると言っても過言ではない。したがって、麻痺発症1年以上経過して麻痺が高度でかつ後遺症の改善を希望する症例には、形成的手術やボツリヌス毒素の皮下注射、神経ブロックなどの治療が必要になる。

後遺症の発現メカニズム

Bell麻痺とHunt症候群の様な末梢神経障害の回復には、豊富な血流を維持することが重要であることは間違いない。したがって、交感神経ブロックであるSGBは虚血を改善し、浮腫を消退させ、支配領域の血流を豊富にすることで神経の再生促進を期待できる。よって、慢性期の治療としても有用であり、特に重症例で回復の遅れた例に考慮される。

  1. 神経再生時に本来再生すべきでない部位に軸索が迷入する神経過誤支配
  2. 再生繊維の髄鞘形成が不十分で、絶縁を失った神経繊維間にエファプスが生じ、刺激が隣接する複数の軸索に伝達される

後遺症の治療法も症状により様々で、不完全治癒例には眉毛拳上述などの静的形成手術が推奨される。病的共同運動にはボツリヌス毒素の皮下注射や選択的表情筋切除術が有効である。また、ワニの涙にはボツリヌス毒素の皮下注射、アブミ骨性耳鳴にはアブミ骨靭帯切断が有効である。

過誤支配とエファプス
過誤支配とエファプス

顔面神経吻合術・移植術

顔面神経麻痺発症後早期よりリハビリテーションを行い、自然回復を待ち、発症後1年以上の経過観察後に、中程度から重度な後遺症が発症する非回復性麻痺症例の場合は適応となる。

形成手術

表情筋に不可逆的な障害がある場合が形成手術の対象となる。陳旧例、先天性麻痺例のほか、頭部顔面の外傷や腫瘍などにより表情筋の欠損、高度障害が生じた場合などがこれにあたる。陳旧例とは、麻痺発症後2年以上経たものがこれに相当すると思われるが、明確な基準はまだない。

参考図書

顔面神経麻痺診療の手引-Bell麻痺とHunt症候群-2011年版
編集:日本顔面神経研究会