顔面神経麻痺

顔面神経麻痺の慢性期治療

急性期に生じた神経の炎症による浮腫、骨管内での神経絞扼、虚血などの悪循環は麻痺発症1ヶ月を過ぎると消退するが、その間に神経無動作、軸索断裂、神経断裂などさまざまな程度の神経障害が生じる。そして、Bell麻痺とHunt症候群では、神経無動作、軸索断裂の繊維が混在し、神経断裂の割合が多い症例ほど予後が不良となる。
急性期治療の主目的が神経の変性を防止することで麻痺の予後を改善させることであるのに対し、麻痺発症1ヶ月〜1年間の慢性期には神経の再生を目指した治療が主体になる。なぜなら、麻痺発症1ヶ月を経過すると神経鞘や軸索の変性はほぼ完了しているためである。

慢性期の治療には薬物療法、星状神経ブロック(SGB)、リハビリテーションなどがあるが、これらの治療は麻痺の程度や誘発筋電図の検査により選択される。すなわち、諸検査での麻痺の回復に3ヶ月以上要すると診断された場合には慢性期の治療が必要になる。ただし、神経の再生において重要なことは、神経繊維の盲目的な再生促進ではなく、一定の神経繊維をもとの支配領域に再生させ、適切な機能を発揮させるようにすることである。なぜなら、軸索断裂以上の神経障害が生じると再生繊維がもとの支配領域を逸脱して過誤再生し、顔面の病的共同運動や拘縮が生じるからである。

近年、適切なリハビリテーションは理論的にある程度神経の過誤支配を阻止することが可能であることが明らかになってきている。ただし、麻痺発症後1年を経過すると、末梢神経は瘢痕組織などで阻止され、さらなる神経再生は期待できない。そして、それ以降は不完全回復と後遺症に対する治療が必要になる。

慢性期の星状神経ブロック

Bell麻痺とHunt症候群の様な末梢神経障害の回復には、豊富な血流を維持することが重要であることは間違いない。したがって、交感神経ブロックであるSGBは虚血を改善し、浮腫を消退させ、支配領域の血流を豊富にすることで神経の再生促進を期待できる。よって、慢性期の治療としても有用であり、特に重症例で回復の遅れた例に考慮される。

リハビリテーション

患側の個別的筋力強化
最後まで残る筋力低下は、上唇拳筋、笑筋、眼輪筋、前頭筋などがある。これらの筋力強化が必要である。患側筋を十分に引き伸ばし、筋収縮が可能な状態にしておく。原則は、患側の個別的筋力強化で、健側と同時の強力な、いわゆる両側対称性の運動は行わない。鏡を見ながら、上唇拳筋(前歯を見せる運動)や笑筋(口を閉じてイーとする練習)など口周囲筋は、患側のみを動かし、それを保持し、次に動いた分だけ健側を動かし、口唇の形態を対称的にする。いずれにしても少しずつ練習することが大切である。
前頭筋の筋力強化は、眼輪拳筋を使い開瞼しながら、少しずつ患側の前頭筋を収縮させる。まったく動かない場合は、健側の額が拳上しないように手を使い強く抑制して、患側のしわ寄せを行う。眼輪筋は患側の片側閉瞼(ウィンク)を行う。重要なことは、筋力強化と同時に、病的共同運動を回避することである。
病的共同運動の回避
慢性期の症例では病的共同運動のために、口周囲の運動を行うと閉瞼が起こるので、口周囲筋の筋力強化を行うときには、必ず眼瞼拳筋による開瞼を同時に行う。さらにウィンクを行うときには、患側に口角が引っ張られることから、口角を健側に引っ張りながら実施する。
また、生理的な瞬目により、患側口角は外側挙上しやすくなっているため、できるだけ健側口角を外側に引くように習慣づけておく。食べたり、喋ったりする動作では、患側眼瞼裂が狭小化するので、この時に眼瞼拳筋を使い開瞼をする習慣づける。
顔面拘縮の憎悪予防
患側の表情筋全体が筋短縮に陥っている状態である。これに対しては、徹底的に強力な用手的伸張マッサージが必要である。できれば15分おきに20〜30秒ほどマッサージを行う。顔面のこわばりが目安で、これがあれば、マッサージが足りない、あるいは三叉神経の出口である眼窩上孔や眼窩下孔に圧痛がある。
額や頬部は上下、左右、円を描くように行い、上唇鼻翼挙筋や鼻筋に対しては、上下、左右にマッサージを行う。上唇の口輪筋の伸張マッサージは、人中あるいは上唇中央上方に一方の示指で固定して、他方の手で水平方向に伸張する。下唇の口輪筋に対しては、下唇中央方向に一方の示指で固定して、他方の手で水平方向に伸張する。
ボツリヌス毒素による治療
表面電極による記録を用いた誘発筋電図である。神経変性を定量的にとらえる検査法として優れた方法であり、顔面神経麻痺の予後診断法として最も正確な検査法といえる。