顔面神経麻痺

顔面神経麻痺の診断

診断の分類

原因疾患、病態の診断

Bell麻痺とHunt症候群の識別(腫瘍性疾患、脳血管障害など他の原因疾患)
Bell麻痺と思われる症例で反復性の場合は、MRIを取る必要があり、ステロイドを用いることがほとんどである。Hunt症候群と思われる場合は、耳介帯状疱疹が発症する。

診療のポイント
顔面神経麻痺の診療 (1)障害部位 中枢性 or 末梢性
(2)発症状況 急性 or 緩徐、および反復性
(3)障害側 一側性 or 両側性
(4)重症度 完全麻痺 or 不全麻痺
耳鼻科咽頭科的所見 (1)耳介、外耳道所見 帯状疱疹、発赤
(2)鼓膜所見 真珠腫性中耳炎、急性中耳炎
(3)口腔・咽頭・咽頭所見 疱疹
(4)耳下腺・頸部所見 耳下腺腫瘍、耳下腺炎、
頸部リンパ節腫脹
(5)脳神経障害 耳鳴、難聴、めまい、眼振所見
見落としてはならない事項 (1)中枢神経症状・脳神経症状 知覚障害、麻痺、眼球運動障害
(2)腫瘍性疾患 聴神経腫瘍、顔面神経鞘腫、
耳下腺腫瘍
(3)全身疾患 糖尿病
障害程度の診断(重症度診断と予後診断)

重症度により、ステロイドの経口投与か点滴かなどの治療法を選択する必要がある。診断方法としては、40点法(柳原法)、House-Bracmann法、Summybrook法など顔面運動の評価法によって行われる。
また、誘発節電図などの生理学的検査の結果から判定神経変性の有無や予後判定の決め手となる。

検査法
原因診断 神経耳科学的検査:聴力検査、聴性脳幹反応、平衝機能検査
画像診断:単純X線検査、CT、MRI
血液検査:抹消血算定、糖尿病検査、肝機能検査
ウイルス学的検査:血清ウィルス抗体の測定、PCR法
その他:検尿、便潜血、骨髄検査
障害程度診断 顔面運動評価法:40点法(柳原法)、House-Bracmann法、Summybrook法
電気生理学的検査:神経興奮性検査(NET)、最大刺激検査(MST)Electroneurography(ENoG)など
その他:涙腺機能検査、唾液腺機能検査、アブミ骨筋反射(SR)、電気味覚検査(EMG)
障害部位診断 涙腺機能検査、唾液腺機能検査、アブミ骨筋反射(SR)、電気味覚検査(EMG)
障害部位の診断

神経損傷程度の分類法には、Seddonの分類とSunderlandの分類がある。

Seddonの分類 Sunderlandの分類
神経無動作、軸索断裂、神経断裂に分ける 1〜5度に分ける(Bell麻痺とHunt症候群では神経断裂までおこらないので、1〜3度の障害となる)

Bell麻痺とHunt症候群の早期診断

Bell麻痺の治癒率は90%前後であるのに対し、Hunt症候群の治癒率は50%〜80%と不良である。
Hunt症候群と診断した場合には、抗ウイルス療法(ステロイド療法)を早期から開始することが推奨されている。Hunt症候群においては発症3日以内にステロイドと抗ウイルス薬の併用療法を行うと治癒率が75%なのに対して、4〜7日目から治療を開始した場合48%、8日以降だと30%も低下すると報告されている。

Bell麻痺とHunt症候群の識別方法

末梢性顔面神経麻痺の原因として最も多いのはBell麻痺であり、全体の60〜70%を占め、次いでHunt症候群が10%〜15%を占める。その他には、中耳炎や腫瘍性病変、側頭骨骨折や顔面の外傷などにより末梢性顔面神経麻痺が発症する。
耳鳴り、難聴、めまいの自覚症状がある場合にはHunt症候群であることが多い。典型的な皮疹または粘膜疹があれば診断は容易であるが、帯状疱疹が外耳炎様症状を呈する非典型例もあり、慎重な診断が必要である。皮疹・粘膜疹は麻痺と同時に出現せずに、顔面神経麻痺発症に遅れて疱疹が出現することもあるので、Bell麻痺と診断された場合でも発症後2週間以内は、耳介・外耳道・口腔咽頭の疱疹が出現する場合がある。

Hunt症候群においては、脳神経症状を呈する例もあるので症状によっては脳神経の検査も必要になってくる。検査による識別方法としては、聴力検査・平衡機能検査・ウィルス検査により症状診断をおこなう。

顔面神経麻痺の評価法

顔面神経麻痺の評価法には、顔面各部位の動きを評価し、その合計で麻痺程度を評価する部位別評価法と、顔面全体の動きを概括的にとらえて評価する方法がある。現在、世界的に用いられている評価法には、前者の40点法(柳原法)と後者のHouse-Brackmann評価法がある。
40点法は、Bell麻痺とHunt症候群の麻痺を評価する目的で作成されたのに対して、House-Brackmann評価法は聴神経腫瘍術後の麻痺を評価するために考案された評価法で、元来対象は異にするが両者には互換性がある。また、後遺症の評価に重点をおいたSunnybrook法がある。

40点法(柳原法)

安静時の左右対称性と9項目の表情運動を4点(ほぼ正常)、2点(部分麻痺)、0点(高度麻痺)3段階で評価し、40点満点で10点以上を不全麻痺、8点以下を完全麻痺と定義している。
本評価法は、顔面表情の主要な部位の動きを個別に評価することで、検者の主観を押さえて再現性を高めるとともに、経時的な部位別評価により、ある程度予後を推定することができる。

ほぼ正常 部分麻痺 高度麻痺
安静時非対称 片目つぶり イーと歯を見せる 頬を膨らます 軽い開眼 4 2 0
額のしわ寄せ 鼻翼を動かす 口笛 口をへの字にまげる 強い開眼 4 2 0
4点:左右差がない、または、ほとんどない(ほぼ正常)

2点:明らかに左右差があるが、患側の筋収縮がみられる(部分麻痺)

0点:筋収縮が全くみられない(高度麻痺)

後遺症の評価項目
病的共同運動 0 1 2 3
拘縮 0 1 2 3
顔面痙攣 0 1 2 3
ワニの涙 0 1 2 3
採点のコツ

40点満点で10点以上を不全麻痺、8点以下を完全麻痺、あるいは20点以上を軽症、18〜10点を中等症、8点以下を重症としている。また、36点以上で中等度以上の病的共同運動のないものを治癒と判定している。採点時の注意点は、

  1. 健側の動きで患者の皮膚が引っ張られて動くのを評価しない
  2. 閉眼運動では上眼瞼は下がるため、下眼瞼の動きに注意する
  3. 耳鳴り、難聴
  4. 額のしわ寄せや片目つぶり、鼻翼の動きなどはうまく動かせない患者が多い

などがあげられる。患者ごとに表情運動量を評価する一定の尺度を設けて判定することが大切である。

治療法の選択と麻痺の予後推定

通常40点満点で8点以下が完全麻痺であり、これらの症例には電気生理学的検査の追加と高度麻痺に対する適切な治療が必須である。なお、完全麻痺では2〜3ヶ月は改善を認めず、治癒したとしても回復に4ヶ月以上が必要である。
18〜10点の患者の多くは、発症後1ヶ月以内に改善傾向を認め、3〜4ヶ月で治癒する。20点以上の症例は1〜2ヶ月で治癒に至り、無治療でも経過良好な場合が多い。このように、40点法(柳原法)は、病初期の予後評価法としては有用である。

House-Brackmann評価法
顔面全体の表情運動をgrade1〜6までの6段階で評価する方法である。
病的共同運動や拘縮、痙攣などの後遺症も評価に考慮されている。簡便で検問者のバラツキが少ないのが利点であるが、部位別評価や経時的な回復経過をみるには適さない。
Sunnybrook法
随意運動の回復、安静時非対称性、病的共同運動(随意運動時の顔面非対称性)の3つの要素から構成されており、随意運動の回復点数から安静時の非対称と病的共同運動の点数を引き算した複合点で評価する方法である。
これら3項目を同時に評価することにより、どの領域に問題があり、治療目標とするかを容易に理解することができるのが利点で、リハビリテーションの指針に有用である。

予後診断

筋電図検査
電気刺激を用いて神経変性の程度を把握する検査としては、神経興奮性検査(NET)、最大刺激検査(MST)、Electroneurography(ENoG)などがある。ただし、いずれの検査法も発症7〜10日以内では正確な予後診断はできない。
神経興奮性検査(NET)
末梢神経を刺激し顔面表情筋の収縮を肉眼的に観察して、筋収縮を起こす電流の最小値を患側と健側で比較する方法。
最大刺激検査(MST)
NETとほぼ同様であるが、MSTでは最大収縮をきたす刺激(定電流刺激装置で通常5mA以上)で刺激し、左右の筋収縮を比較する方法。NETより正確度は高いといわれている。
Electroneurography(ENoG)
表面電極による記録を用いた誘発筋電図である。神経変性を定量的にとらえる検査法として優れた方法であり、顔面神経麻痺の予後診断法として最も正確な検査法といえる。

流涙検査

流涙分泌機能検査として一般的に施行されるのは、Schirmer試験第1法である。点眼麻酔を使用せずに、自由開眼で行う。試験紙を下眼瞼に吊るして、濡れた状態で診断する。しかし、Bell麻痺とHunt症候群などでは障害部位診断法としての意義は小さいと考えられている。

味覚検査

電気味覚検査(EGM)は、舌に弱い電流を流すと酸味や金属味を感じる。これを利用して刺激の強さを増減させて、味覚値を測定する方法である。腕か首に不関電極を鋏み、プローブを舌や軟口蓋に当てて電流を流し、味がした場合に応答スイッチを押してもらう。しかし、Bell麻痺とHunt症候群などでは障害部位診断法としての意義は小さいと考えられている。

上記以外の診断方法としては、アブミ骨筋反射(SR)、瞬目反射(BR)、磁気刺激誘発筋電図(TMS)、逆光性顔面神経誘発電位(AFNR)がある。

障害部位診断

Bell麻痺とHunt症候群の初期病変は膝神経節にあることが判明した現在では、これらの疾患での障害部位診断の臨床的価値は低下した。しかし、側頭骨骨折に伴う顔面神経麻痺の新鮮例では、顔面神経に侵襲を及ぼした部位を推定することは臨床上重要である。

神経障害の程度と再生の分類
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