顔面神経麻痺

顔面神経麻痺の基礎知識

顔面神経の構成

運動神経、分泌副交感神経、味覚神経によって構成される。顔面神経が障害されることで発現する症候は、これら3種類の異なる神経障害により形成される。したがって、顔面神経障害では運動障害以外に多彩な障害がみられる。
また、運動神経は大脳皮質運動野から出て顔面の表情筋を支配するが、顔面の上半部の表情筋を支配する運動繊維の一部は、同側の顔面神経核に入る。そのため、核上性の障害(中枢性麻痺)では前額などは両側支配となり麻痺を免れることになる。

顔面神経の構成繊維
顔面神経の構成繊維
顔面神経の分岐
顔面神経の分岐

顔面神経麻痺の原因

顔面神経麻痺の原因は多様であるが、日常診療で特に多くみられるものはBell麻痺とHunt症候群であり、全体の約70%を占めている。

Bell麻痺
明らかな病因が同定できない末梢性顔面神経麻痺である。突発性顔面神経麻痺ともいわれる。現在では、ウィルスの関与、特に膝神経節で再活性化したHSV-1がその主たる原因であると考えられている。また一部はVZVの関与した例もあり、それらは無疱疹性帯状疱疹(ZSH)と呼ばれる。
Hunt症候群
膝神経節におけるVZVの再活性化を原因とした顔面神経麻痺である。
Hunt症候群を構成する徴候としては、

  1. 外耳道および耳介周囲、舌の鼓索神経領域や口蓋の大錐神経領域の帯状疱疹
  2. 顔面神経麻痺
  3. 耳鳴り、難聴
  4. めまいなどの前庭症状

しかし、VZVの再活性化が麻痺の原因であるにもかかわらず帯状疱疹の見られないこともある。その場合は、無疱疹性帯状疱疹(ZSH)と呼ばれることが多い。

顔面神経障害患者の原因と頻度(3,053例の検討)

原因 例数 頻度
Bell麻痺 1,626 53.3%
Hunt症候群 429 14.1%

疾患別頻度の差異

地域との差異(人口10万人当たりの年間発症例)

Bell麻痺 Hunt症候群
20〜30例 2〜3例

年齢との差異

Bell麻痺 Hunt症候群
30歳代の患者が多く、発症頻度は50歳代に多い。また、妊娠後期の女性に発症しやすいと指摘される。 発症頻度は、20歳代と50歳代に多い。また、小児では女児の方が発症頻度が高い。

季節との差異

Bell麻痺 Hunt症候群
一年中ほぼ一定 5月と8月は少なく、3月と4月および6月と7月に発症例が増加すると報告がある。

自然経過

Bell麻痺
良好な自然治癒が認められている。Bell麻痺のHouse-Brackmann評価法で全く後遺症の無い症状や満足な改善まで自然回復する。自然経過での不全治癒や後遺症が見られるのは少なく、改善が見られない例はない。
Hunt症候群
VZVの関与する顔面神経麻痺は、そうでない麻痺に比べて予後不良である。完全に治癒するのは40%と報告されている。

例えば、3〜4ヶ月にわたり改善がみられず悪化するようであれば、腫瘍などBell麻痺やHunt症候群以外の原因を疑う必要がある。

小児と成人の予後の違い

一般的に年齢は顔面神経麻痺の予後に関連する因子の一つである。例えば、40歳代以下の症例は50歳代以上の症例に比べて予後が良好である。さらに小児におけるBell麻痺例では90%が完全に自然治癒し、成人に比べて予後が良好であると報告されている。
Hunt症候群については、成人ではBell麻痺に比べて麻痺の予後が不良であることが知られている。小児のHunt症候群の発症頻度は低く、予後や治療成績に関する報告が少ない。

再発性顔面神経麻痺

Hunt症候群が再発することはきわめて稀であるが、Bell麻痺や他の顔面神経麻痺では再発することがある。再発性麻痺には、一側のみに再発する場合と両側に発症する場合がある。

一側再発(反復)性麻痺
一側のみに反復して発症する。多くは2回までだが、4回以上発症する場合もある。
両側交代性麻痺
一側の顔面神経麻痺が発症し、麻痺が治癒あるいは回復した後、反対側に生じる。
両側再発(反復)性麻痺
両側に3回以上麻痺が生じる。頻度はきわめて稀である。

一側再発(反復)性麻痺には原因の特定できない再発性Bell麻痺が最も多い。一方、時期を異して両側に発症する両側再発(反復)性麻痺には糖尿病の合併する頻度が高い。Bell麻痺の10%前後に糖尿病の合併することも事実であり、糖尿病は再発性麻痺の危険因子ともいえる。
予後に関しては、一般的に再発を繰り返すごとに悪くなる傾向があり、病的共同運動など後遺症の発現頻度も高い。

麻痺発症のメカニズム

Bell麻痺
原因が不明の突発性顔面神経麻痺とされているが、最近はウイルス感染を原因としているものと考えられている。原因ウイルスの最も重要なのもとしてHSV-1がある。再活性化したHSV-1により顔面神経は神経炎が生じ、顔面神経管内での悪循環が顔面神経の麻痺を発症させる。

※ HSV-1:ヘルペスウイルスの一つ

Hunt症候群
初感染時に膝神経節に潜伏感染したVZVの再活性化による顔面神経障害と考えられている。初感染は小児期の水疱瘡としても知られている。その際に、多くの神経節細胞に感染し潜伏する。潜伏感染したVZVはストレスなどを契機に、神経節細胞内で再活性化し増殖を開始する。再活性化したVZVにより顔面神経は神経炎が生じ、顔面神経管内での悪循環が顔面神経の麻痺を発症させる。

※ VZV:水痘・帯状疱疹ウイルス